大判例

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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)105号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決にこれを取り消すべき違法の点が存するかどうかについて検討する。

1 本願考案に係る出願公告された明細書の実用新案登録請求の範囲に記載されたところが原告主張のとおり(事実摘示第二の二の1参照)であることは、前示のとおり当事者間に争いがなく、成立について争いのない甲第二号証(本願考案についての実公昭五一―三九三一二号実用新案出願公告公報)によれば、右明細書には、本願考案の一実施例を示す油圧回路図を第一図、従来の油圧ウインチの自動停止装置を示す油圧回路図を第二図として、別紙図面のとおりの図面が添付されたうえ、考案の詳細な説明において、次のとおりのことが記載されている。すなわち、その冒頭において、「この考案は油圧クローラクレーン等に適する油圧ウインチの自動停止装置に関するものである。」(甲第二号証の第一欄二四行目ないし二五行目)としたうえ、第二図に示された従来の油圧ウインチの自動停止装置についてその作動工程を説明し、この従来の装置が、「ポートC2から電磁切替弁5へ配管しなければならず、その配管における油洩れにより荷が落下するおそれがある。また電磁切替弁5を切替えたまま巻下げを行うと、カウンタバランスバルブ4の逆止め弁4aがハンチングを起こし、はなはだしい時には荷が落下する。」(同第二欄一二行目ないし一七行目)との欠点を有していたのに対し、「この考案は上記の欠点を除くためのもので、市販されている普通のカウンタバランスバルブ弁を用いて安全に油圧ウインチの自動停止を行えるようにしたものである。」(同第二欄一八行目ないし二一行目)と本願考案の効果を概括し、続いて第一図に示された本願考案の一実施例の説明に入つて、「6は主回路2Aに設けた普通のカウンタバランスバルブ、7はウインチ操作用手動切替弁で、これを切替えると油圧切替弁3にパイロツト圧油が供給され油圧切替弁3が切替えられ、主回路2Aまたは2Bを通して油圧モータ1に圧油が供給される。8は油圧切替弁3のパイロツト圧回路に挿入した電磁切替弁で、スイツチ9を介して切替えられる。」(同第二欄二五行目ないし三二行目)と各要素の関連を説明したうえ、この実施例の装置では、「巻上げを行つている場合に、巻上げの限界点に達してスイツチ9が閉じられると、電磁切替弁8が8a側に切替えられ、パイロツト圧油がタンク回路に落ち、油圧切替弁3は中立位置に戻る。これにより油圧ウインチの巻上げ動作が停止される。なお、この場合、巻下げ動作はなんら支障なく行える。」(同第二欄三三行目ないし第三欄一行目)との効果を奏することを説明し、最後を、「以上説明したこの考案によれば、廉価で安全性の高い油圧ウインチの自動停止装置を提供することができる。」(同第三欄二行目ないし四行目)と結んでいるものである。

2 原告は、先ず、審決が本願考案の要旨を出願公告された明細書の実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりのものと認定したのは誤りである旨主張する。

原告の主張するとおり、審決が本願考案の要旨であると認定したとおりの考案をもつては、明細書の考案の詳細な説明中に記載されているような、電磁切替弁を切り替えて自動停止をかけた状態のまま巻下げ側に操作しても安全に荷を降下させることができるとの効果を奏することはできず、右の効果は、明細書に添付された図面の第一図に示されたものにおけるように油圧切替弁を構成することによつて初めて達成されるものであることは明らかである。しかしながら、他面において、出願公告された明細書の実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの考案は、それ自体として、明細書の考案の詳細な説明中に明記されたところに即して、そこに従前の装置として記載されたものと比較すれば、従前の装置が「ポートC2から電磁切替弁5へ配管しなければならず、その配管における油洩れにより荷が落下するおそれがある。」との欠点を有していたのに対し、カウンタバランスバルブから電磁切替弁への配管を行わず、カウンタバランスバルブを設けた主回路の圧油を切り替える圧油切替弁のパイロツト圧回路に電磁切替弁を挿入した構成を採ることにより、「市販されている普通のカウンタバランスバルブ弁を用いて安全に油圧ウインチの自動停止を行えるようにした」との効果を奏するものであり、このことは、明細書の考案の詳細な説明における記載によつて明らかにされているものということができる。

しかして、いかなる構成の考案について実用新案登録を求めるかは出願人においてこれを定めるべきものであり、出願に当たつては、これを願書に添付すべき明細書に実用新案登録請求の範囲として記載することが要求され、いつたん実用新案登録出願に基づいて登録がなされれば、登録実用新案の技術的範囲は明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定められなければならないのであるから、出願に係る考案、すなわち、出願人において実用新案登録を求めている考案の要旨も、明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて把握されなければならないことは、法の当然に予定しているところであるというべきである。

以上認定、説示したところによつて出願公告された本願明細書の前認定の記載をみれば、出願人たる原告においては、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの考案について、これがそれ自体として、従来の装置に比較して、新規な構成を採ることによりその欠点の一つを解決したことをもつて、実用新案登録を求めたものであり、これを更に限定してなお別異の効果をも奏するようにした考案、すなわち、明細書の添付図面の第一図に示すように油圧切替弁を構成した考案については、これを出願に係る考案の一実施例として明細書の詳細な説明中に開示するにとどめ、あえてこれにつき実用新案登録を求めなかつたものとみるのほかはない。

してみれば、審決における本願考案の要旨の認定は正当であつて、ここになんら違法の点はない。

3 原告は、次に、審決は原告に意見書を提出する機会を与えることなくなされた点において違法である旨主張する。

成立について争いのない甲第三号証、第七号証によれば、本願考案についての拒絶査定は、登録異議の決定に記載された理由を全て引用しているところ、該登録異議の決定は、本願考案の要旨を出願公告された明細書の実用新案登録請求の範囲として記載されたとおりのものと認定したうえ、これは第一引用例及び第二引用例に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものであると判断して、本願考案は登録することができないとの結論に達しているものであり、審決が本願考案をもつて登録できないものとした理由となんら異なるところはないものである。もつとも、該登録異議の決定の理由中には、原告が引用するとおりの「なお書き」が記載されているけれども、これは、本願考案は登録することができないとの結論には全く影響を及ぼさない傍論として、単に詳細な説明中の記載の一部に実用新案登録請求の範囲の記載をもつて画される考案によつては奏されない効果が記載されたところがある旨を指摘したものにすぎず、これを明細書の記載の不備として実質的な拒絶の理由としているものでないことは明らかである。

してみれば、審判においては新たに拒絶の理由を通知する必要はなんら存しなかつたものであり、かかる通知を受けなかつたために、原告において意見書を提出し、ひいては明細書の補正を行う機会を与えられることがなかつたからといつて、これをもつて審決が違法なものとなるいわれはなんら存しないものというべきである。

4 その他審決にこれを取り消すべき違法の点を認めることはできない。

三 以上のとおりであるから、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本件登録実用新案に関する事項は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四七年六月三〇日、名称を「油圧ウインチの自動停止装置」とする考案(以下「本願考案」という。)について昭和四七年実用新案登録願第七六五九二号をもつて実用新案登録出願をしたところ、昭和五一年九月二七日、実公昭五一―三九三一二号公報をもつて出願公告された。しかるところ、これに対し訴外株式会社ユニツクより実用新案登録異議の申立てがあり、昭和五五年六月二七日、右申立ては理由がある旨の登録異議の決定及び拒絶査定があつたので、原告は、同年一〇月二日、右拒絶査定に対する不服の審判を請求し、併せて同年一一月七日、補正案(以下「本件補正案」という。)を提出して補正の機会を与えられるよう要請したが、右審判の請求については、特許庁昭和五五年審判第一七六五六号事件として審理された結果、昭和五七年三月四日、本件審判の請求は成り立たないとの審決があり、その謄本は、同年四月二一日、原告に送達された。

二 実用新案登録請求の範囲の記載

1 出願公告された明細書と図面におけるもの

ウインチを駆動する油圧モータ(1)の主回路(2A)、(2B)の巻上げ側回路(2A)にカウンタバランスバルブ(6)を設け、主回路の圧油を切り替える油圧切替弁(3)のパイロツト圧回路に電磁切替弁(8)を挿入し、その電磁切替弁(8)を切り替えてパイロツト圧をタンク圧にすることによりウインチを停止させるようにした油圧ウインチの自動停止装置。

2 本件補正案におけるもの

ウインチを駆動する油圧モータ(1)の主回路(2A)、(2B)の巻上げ側回路(2A)にカウンタバランスバルブ(6)を設け、その主回路の圧油を切り替える油圧切替弁(3)を中立、巻上げ、巻下げの各ポジシヨンを有するもので構成し、該油圧切替弁(3)を常態においては中立位置に保持し、ウインチ操作用切替弁(7)によつて巻上げ又は巻下げ側に切り替えるようにした油圧ウインチにおいて、前記油圧切替弁(3)の巻上げ方向のパイロツト圧回路に電磁切替弁(8)を挿入し、その電磁切替弁(8)を切り替えてパイロツト圧をタンク圧にすることによりウインチを停止させるようにした油圧ウインチの自動停止装置。

〔編註その二〕 本件に関する別紙図面は左のとおりである。

別紙図面

<省略>

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